日番谷くんへ



こうして手紙を書くのは初めてかもしれませんね。伝えたいことは少しだけ、です。
でも、読んだら、知ったら、重荷に感じるかもしれません。
これ以上何も背負いたくないのなら、ここで読むのを止めてください。
その背にあたしまで背負う必要はありません。これはあたしの自己満足、です。

ずっと、好きでした。一緒にいたいと思いました。
幼馴染みとか、家族とか、そんな愛情でしょうか。
それとも 恋人に対するものでしょうか。どれも、ちょっとずつ、違う気がします。
独占欲が一番近いかもしれません。



日番谷くんが死神になった理由を、今のあたしはまだ聞いていません。
気まぐれかもしれないし、お婆ちゃんが何か言ったのかもしれない。
理由はどうであれ、あたしは、また会えて嬉しかった。
自分から出て行ったくせに、心のどこかで追ってきて欲しいと願っていたんです。


あたしが死神になったのは、みんなを、人間を護りたいからだと、
出発する前に言いました。本当にそうだと思ったけど、他にも理由があります。

護りたかったのは、あなただったんです。

いつも護られてばかりでした。
年上なんだからしっかりしなくちゃ、 と思っていたのにいつの間にか立場は逆になっていて。
あたしが助けられてばかりでした。 そんなのは、嫌だったから。

死神になったことが命を短くさせたのだとしても、後悔はしません。




日番谷くん。
あたしは、最後、笑っていましたか?怒っていましたか?泣いていましたか?
今は、まったく想像が出来ないけれど、
最後の最後、あなたを想うことができたら。しあわせだったと、
此処に居られて良かったと、笑えると思います。
一番嫌なのは、自分を見失うことなのです。

護ってもらいました。
泣く場所を与えてくれました。
独りの辛さを知りました。
不器用な優しさを、いっぱいもらいました。


あたしのことを、忘れても覚えていてもかまいません。
あたしの分まで生きてとか、そんなことは頼まないから。
ただあたしが日番谷くんのことを想うことを、許していてください。



幸せを、願っています。




                              雛森桃











藍染は懐から丁寧な筆跡で書かれた手紙を取り出した。自分の副官から預けられた物である。 彼女が死んだ後、それ彼に渡すのは自分の役目だった。

明るく強い彼女だけれど、精神的に脆いところがあることを知っていた。 自分の支えだった人間の記憶を失って、かなり不安定なのだ、今も。つじつまの合わないところのある記憶に、焦りを感じている。

幼馴染みが自分の記憶を失って、日番谷もかなり精神的にまいっているように見える。 もちろん表面には出さず、いつもと同じように仕事を続けてはいたが。

あの少年は、何を考えているのだ。大切なもののために自分を消すのか。 多少の危険があっても記憶を取り戻そうとすればいいのに、それができるのが若さだと思うのに。 あの幼い子供はそれをしない。ただじっと耐え、彼女の幸せを想っていた。

「賭け、のようなものだけれど」

藍染は幼い子供のように楽しげに笑い、手紙を机の上に置いた。 時間を稼ぐためにあたりをぶらりまわってこようと、少し出る、と書き残し部屋を出る。 自分が居ない時、この書き置きを見るのは。手紙を発見するのは。

「さて…」

彼女のためではない。ただ、少年が不憫で、哀れで。ほんの少しの切っ掛けを作ってみようと思っただけだ。 それによって彼女がどうなろうと、自分の知ったことではない。 彼女や他の大勢が思っているほど、自分は優しくなんて無いのだから。


















藍染登場。この人に対する怒りも薄れてきました(笑)