「おはようございます、隊長!」
「…遅刻」
「やあだ、そんな細かいこと気にしないで下さいよー」
「細かくねえ!」

ほらこれお前の分。そういって手渡された書類は、思っていたよりも随分少ない。 不思議に思い乱菊は上司の顔をまじまじとみた。なんだ、という不機嫌そうな声はいつものことだが、それが幾分低い気がする。 よくみると、目元には薄い隈ができていた。

(急ぎのじゃないのに)

「…どうかしたか」
「いえ、」

これならすぐ終わりそうですね、と乱菊は調子のいいことを言いながらぺらぺらと書類を眺める。 この量なら昼前には一段落着く。午後は少し休憩できそうだし、たまには隊長の仕事も手伝ってやろう、 と(本来なら隊長がやるような仕事ではないのだが)乱菊は日番谷の机の上にあった整理済みの書類へ手を伸ばす。 幼い容姿には似合わない大人びた字。その文字を目で追っているうちに、"五"という字が見えた。

「…隊長、これ五番隊へですけど。今届けてきますか?」

五番隊への書類はほとんど日番谷が持っていっていたので、乱菊は自然にそう尋ねた。 隊長、今行ってきますか。そういった意味で。それは癖のようなものだった。

「あー。悪ぃ、それ全部配っといてくれ。他のやつにも頼んでもいいから」
「え?」

返ってきた言葉が予想外で、乱菊は目を瞬かせた。そして少しの間があってから、ああそうか。 と納得する。もう以前のように気軽に遊びに行ったりはしないのだ。しない、ではなくてできない、の方が近い。

「じゃあ、あたし行ってきますね。とりあえず目の隈はさっさと消して下さい」

おう、と机にうつぶせた日番谷からくぐもった声が聞こえた。 やはり徹夜で疲れているのだろう、それにあんなことがあったあとだ。 それでも仕事に影響が出ないのは流石だと、乱菊はため息をついた。もしかして、気を紛らわせるために仕事をやっていたのかもしれない。 もう少し頼ってくれても、そんなことを言ってもどうにもならないことはわかっていたが。










いやなことがあったら仕事をしてそのことを考えないようにする日番谷。 乱菊さんは無理してる日番谷を心配してるけど、その気持ちがわかってしまっているから何も言えない。
ちょっと短かったですね;