乱菊が理不尽だとぼやきながら書類と奮闘していたその時。











雛森たちは、瀞霊廷内にある、甘味処に着ていた。
上品な甘さが人気のこの店は女性死神に大人気である。


どうしたのかなあ、と雛森は首をかしげた。

雛森は、一人蕨餅を食べていた。
注文する時に雛森は何か食べないのかと聞いたのだが、二人とも食べないと言った。
恋次はどこか落ち着きがない。
吉良は斜め上を向いて、放心状態である。
二人とも、茶を飲みに…と言っていたのに、何をしにきたのだろうか。
不思議に思ったが、理由が分からないのでとりあえず手を進めるしかなかったのである。


ぱくり、ぱくり。

やっぱり此処のお菓子ははおいしいなあ、日番谷くんも誘ってあげればよかった。
のんきにそう考え、また一口。

恋次はさっきのことを聞こうかどうか迷っていた。
さっさと聞いて隣の放心状態のヤツを治してやりたいが、もし想像通りだったら…。
それに雛森に聞いたことが日番谷の耳に入ったら、と思うとなかなか聞き出せない。


「…ひ、雛森?」

「ふぁに?」

蕨餅を口に含んでいたため、へんな声になったが恋次は気にしない。というかあまり耳に入っていないようだ。
机にばん、と手を置き、雛森の目をじっと見た。

「…?」

わけの分からない雛森は、首をかしげることしか出来なかった。
どうしてこんなに悩んでいるのか、考えてみても分からない。
恋次の口から出た言葉は、雛森にとっては意外なものだった。

「さっき、執務室で何してたんだ?」

「執務室で?」

ごくりと口の中のものを飲み込んで、こんどははっきりと返事をした。

(執務室で…ああ、日番谷くんと?)


「マッサージしてもらってたんだよー」


あっさりと答えた雛森の言葉を理解するのに恋次は数秒かかった。

(…あんな声出るのか!?)


突っ込みたかったが、とりあえずそれを置いておいて隣をちらりとみる。
幾分か回復したようで、ちゃんと前を向いていた。


結局こんなもんだ、心配して損した。そう思いながら二人、同時にため息をつく。


わけが分からない雛森は、とりあえず聞くことにした。

「…どうしたの?」






さっきのことを言うべきかどうか二人は迷ったが、雛森が真剣に心配しているようなので、結局全部話してしまった。
恋次が面倒くさそうに説明したあと、雛森の顔は真っ赤になっていた。

「何考えてるの!」

恥ずかしそうに赤面しながら言う雛森に、恋次は「乱菊さんが…」と言い訳をした。
それを前提で乱菊さんが話を進めて…と必死に説得する。吉良は何も言えず、黙ってこくこくとうなずいていた。
必死の説得もあまり効果はないようで、雛森は怒ったままばくばくと蕨餅を口に運ぶ。


「…ったくもう、なんでそうなるの…」

「いや、アレは怪しいだろ…」

「いくら日番谷くんでも、仕事中にするわけないでしょ!」

「仕事中じゃなかったらすんのか?」

「まあ…ってええ!?」



何気なく恋次が返した言葉に、異常に雛森が反応した。
よく考えずに返事を返していて、思わず口を滑らせてしまった雛森は、しまった、という顔をした。
先ほどよりも更に赤くなる雛森を見て、恋次はにやっと笑った。


「へー、そうなのかー」

「いや、あの、ちょっとそんな!」

「いやいや、隠さなくていいぜー」

「だーかーらー!」

「ははっ。…あ」


雛森をからかって遊んでいた恋次が、そこで急になにかを思い出し、言葉を詰まらせた。
はっとして忘れてしまっていた隣のやつを見ると…魂が半分抜けている気がした。

「…き、吉良…?」

「…は、…はは、雛森君が、まさか、そんな…」

恐る恐る声をかけると、まともな返事は返ってこない。


哀れな友人を不憫に思い、肩をぽんと軽く叩いて呟いた。







「…ご愁傷様」















結局マッサージなんてベタなオチです。 吉良はこの後、三日間は放心状態でした。