「ん…」






雛森が目が覚めたとき隣にいたのは、日番谷だった。
日番谷をしっかりと抱きしめ、抱き枕のようにしていた。
見た目と違って柔らかい髪が顔にあたり、こそばゆい。

体を少し起こして、日番谷の顔を覗き込んでみる。
普段の不機嫌そうな顔とは違い、すやすやと可愛らしい寝顔である。
その違いが面白くて、思わずふふっと声を出して笑ってしまった。

笑い声で起こしてしまったか、と少し不安になった。
しかし日番谷はまだぐっすり眠っているようで、ぴくりともしなかった。
可愛いなあ…と雛森は日番谷の寝顔をじっとみつめていた。



まだ幼い子供なのに、目鼻立ちははっきりしている。
大きな目を縁取る睫毛は長い。
肌は滑らかで。闇の中でその白さが目立っていた。
部屋に入る月明かりを白銀の髪が反射し、ぼんやりと光って見えた。



雛森はその光景を神秘的だなあと思った。どうして此処まで綺麗なのかと。
肌は自分も同じくらい白いかもしれないが、美しい白銀の髪は彼だけのもの。

しばらく見惚れていると、いきなり日番谷の目が開いた。
顔をじっくり見ていた雛森とばっちり目が合って。


無防備で可愛らしかった顔が、一気にいつもの不機嫌そうな顔に戻った。
それを少し残念に思いながら雛森はまだ日番谷の顔をみつめていた。

開いた目は綺麗な碧色で。
その瞳と髪が羨ましいと思った。


「…なんだよ」


日番谷が、眠たそうな目で睨みながら言った。
眠いためかとろんとしている目では、睨んでもあまり迫力がない。


「―ううん。…可愛いなあって」


言ってしまってから、怒られると思って雛森は身構えたけれど、日番谷は何も言い返してこない。
いつもなら「馬鹿」とか「お前よりは」とか、すぐに可愛くない言葉が返ってくるのに。
中途半端に眠りから覚めてしまったので、頭がまだはっきりしていないようだった。


「…うっせ」

「もう、ほめてたのに…」


嬉しくねえ、と言ってから、また日番谷は目を閉じた。
雛森は日番谷とは逆に一度起きて目が冴えてしまって、すぐには眠れそうにはない。
体を起こしていたので、体が冷えてきた。


「しーろちゃあーん!」


悪いと思いつつも、雛森は声を出して日番谷に抱きついた。
本当に眠いようで、やめろ…と雛森を必死で引き剥がそうとしてきた。
しかし、睡魔に負けたのかあきらめたのか、徐々に抵抗もちいさくなってくる。


ぎゅっと抱きしめると、日番谷の体温が伝わってくる。
日番谷はいつも体温が少し高く、寒い時には抱き枕に最適である。
冷えた体が、だんだん温まっていくのがわかる。


(…あたたかいなあ)

えへへ、と雛森は笑って、そのまま眠りにつこうとした。
おやすみと呟くと、傍から「さっさと寝ろ」と眠そうな返事が返ってくる。

あたたかさと、日番谷がすぐ傍にいることが嬉しくて。
喜びをかみ締めたまま、幸せそうな笑顔で雛森は眠り始めた。







「…馬鹿」


日番谷が呟いたその声は、眠ってしまった雛森には聞こえない。
あたたかいからという理由だけで一緒に眠らされている日番谷は、複雑な心境だった。
それでもこのぬくもりは今だけとわかっている日番谷は、抵抗はしなかった。
いつかは遠くへいってしまうけれど、今だけは。

















規則的な寝息、あたたかな体温。
生きている、此処に居る、証。








このぬくもりだけは手放したくなかった。



















ずっと傍に居て、と無意識のうちに相手を抱きしめる腕に力を込めた。
 












 
月明かりの中、二人が願ったのは今が永遠に続くこと。

自ら手を離したのはどちらだったか。














シロ桃です。日雛でも大丈夫ですが、それだと怪しい気がするので…。
雛森は寒がりなので、体温の高い日番谷くんを抱き枕に…と妄想。
死神になってからの日番谷視点での話も書いてみようか思案中。