どうしようもない、と自分を誤魔化して。 生にしがみついた。 やっと手にした平穏な日々は、罪悪感と後悔ばかりだったけど。 冷徹にみえるけれど誰よりも優しいあの方が、愛おしかった。 ずっと傍に居たいと思った。 幸せ、だった。 久しぶりに晴れ、心地よい日だった。空の綺麗な澄んだ青に心を引かれた。 珍しく調子の良い体が嬉しくて、屋敷を出て瀞霊廷を歩こうと思った。 賑やかな街を歩き、周りを見渡す。 病気がちでいつも寝ている生活だったので、外にでるのは久しぶりだった。 飢えや殺戮の恐怖が無いここでは、みなゆったりと日々を過ごしている。 その生活が出来るのは、死神か貴族だけ。 数年前の自分がいた場所からは、考えられない。 昔のことを考えながらぼうっとして歩いていたら、どん、と前から小さな衝撃が来た。 「きゃっ…」 前を見ると、幼い少女とその家族らしき人が、申し訳なさそうにこちらを見ていた。 女の子の母親らしい、優しそうな女の人が、 「すみません、この子が…」 と謝ってきた。 「こちらこそすみません。少しぼうっとしていたもので…」 女の子はごめんなさい、と素直に謝ってきた。 母親の着物の裾をつかみ、こちらを見上げている少女が微笑ましかった。 黒髪の可愛らしい少女をみて、自分の妹のことが頭に浮かんできた。 (あの子は、どうしているだろうか…) 「ごめんね。大丈夫?」 「うん!」 笑顔で答える少女にこちらも笑顔を向け、良かった、と言った。 屋敷に戻ると、剣呑な空気を発している白哉様がいた。 いつも無表情のように見えるそれだが、一緒にいるうちに見分けられるようになった。 今はちょっと…怒っている。 「どこへ行っていた?」 「…すみません、体の調子が良かったもので…」 一人で勝手に外出したことを怒っているのかと思い、一応謝った。 白哉が返してきたのは、無事ならよい。という短い返事。 心配されていたのだ、と少し嬉しくなった。 体のことでいつも心配を掛けているのに、悪いと思いながらも。 大丈夫か、と白哉様が尋ねてくる。 もう怒っているようではなく、私の体を心配してのことだった。 白哉様はいつも優しい。 冷たい人のように思われがちだが、本当は誰よりも優しいことを、私は知っている。 だけど優しくされるたび、愛されるたび、あの子のことを思い出す。 流魂街でも治安の悪いその地区では、私はあの子を抱えて生きていくことができなかった。 仕方ないと自分を誤魔化し、納得させて。 一度死んだ身で、醜く生にすがり付いて。 一人では生きていくことの出来ないような幼い妹を、捨てたのだ。 私は白哉様に会って、妻になり。裕福な暮らしができるようになったけど、妹は。 妹のことで、酷く後悔してばかりの日々。 一度、妹を探しに流魂街まで行った。 一人で行こうと思っていたが、白哉様が心配して一緒に行ってくださった。 相変わらず治安が悪く、人はみな険しい顔をしていた。 瀞霊廷にずっと居たためか、その違いがよくわかった。 幼い子供もみな目をぎらぎらとさせ、自分が生きるのに必死になっている。 白哉様はその様子を見て、少し顔をしかめた。 滅多にこんなところには来ないのだから、仕方が無い。 この方は、美しいものを多く見て育ってきたのだ。 妹がいた痕跡は、もうどこにも何も無かった。当たり前だ、と思った。 一年間もあんな場所にいられるはずが無い、幼い子供が。 自分はそれを分かっていたはずなのに。 そこまでして生きる意味など、その時にはなかったはずなのに。 どうしようもなく弱い自分が嫌になった。 その場で俯いたまま何も言えなかった私に、白哉様が戻るか。と言った。 無理をして此処まで来た為か、体がだるくてふらついてしまう。 白哉様が気づいて、眉を寄せた。 その顔で、連れて来るのではなかった、と思っているのが分かってしまった。 私は心配してもらえるような人間ではないのに。 無言で私に差し出された手は、温かくて。 思わず泣き出してしまったことを、まだ覚えている。 様子がおかしい私に、どうした、と尋ねてくる白哉様。 「とにかく、休んだ方がいい」 何気なく差し出された手は、あの時と同じように温かかった。 無意識に、涙が溢れる。 こんなにも後悔するくらいなら。 温かさにふれるたび傷ついてしまうのなら。 私も一緒に死んでいれば。 今からでも遅くは無かったのだ。 流魂街に赴き、見つかるまで妹を探せばよかった。 自分が死んでしまっても、それは妹を捨てた罰だ。 そんなことは、出来なかった。 あまりにも我侭で身勝手自分は。 差し伸べられた救いを、愛情を。 その温かい手を離すことは、できなかった。←
初めての白緋…。原作では緋真は「ルキア」って言いませんでしたよね? 名前は誰がつけたのでしょうか…やっぱり緋真?白哉? この二人はほのぼのだと思うのですが、なぜかシリアス…(汗 次に白緋書くなら白哉視点でほのぼのにしよう…うん…